へそくりは財産分与の対象? 財産分与の考え方と進め方
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千葉県が公表している人口動態に関する統計資料によると、2022年の千葉県内の離婚件数は8605件(離婚率1.41)でした。そのうち、成田市での離婚は192件で、離婚率は1.55でしたので、成田市は、県内でも離婚率の高い市町村であるといえます。
離婚時には財産分与により夫婦の財産を分けることができますが、相手が自分に隠して貯めていた「へそくり」は財産分与の対象になるのでしょうか。へそくりは、内緒で貯めている資産ですので、財産分与の対象にする場合でもいくつか注意すべきポイントがあります。財産分与で不利にならないようにするためにも、へそくりの財産分与のポイントを押さえておきましょう。
今回は、へそくりと財産分与との関係、へそくりを財産分与する際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 成田オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、へそくりは財産分与の対象?
へそくりは、財産分与の対象になるのでしょうか。以下では、財産分与とへそくりとの関係を説明します。
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(1)共有財産・特有財産とは何か?
へそくりが財産分与の対象になるかどうかを理解するためには、財産分与における「共有財産」と「特有財産」をしっかりと区別しなければなりません。
共有財産とは、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産をいい、財産分与の対象になるのは、共有財産です。
これに対して、特有財産とは、夫婦の協力とは関係なく形成された財産をいい、特有財産は、財産分与の対象外になります。このような特有財産に含まれるものとしては、以下のような財産が挙げられます。- 結婚前に貯めた現金や預貯金
- 親から相続した遺産
- 親から贈与された財産
- 婚姻前から加入している保険(特有財産部分は婚姻前の部分)
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(2)共有財産に該当するへそくりは財産分与の対象になる
へそくりが共有財産に該当する場合には、財産分与の対象になります。共有財産に該当するへそくりとしては、以下のものが挙げられます。
- 夫から渡された生活費を節約して妻が捻出したへそくり
- 婚姻中に購入した不用品をフリマアプリで売却して得られたへそくり
- 妻がパートや内職で貯めたへそくり
他方、へそくりが特有財産に該当する場合には、財産分与の対象とはなりません。特有財産に該当するへそくりとしては、以下のものが挙げられます。
- 婚姻前に購入した貴金属や宝石を売却して得られたへそくり
- 親からもらった小遣いを貯めたへそくり
- 特有財産から生じた利息や家賃収入
2、財産分与の対象となるもの
財産分与の対象になる共有財産には、以下のようなものがあります。
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(1)現金・預貯金
婚姻中に貯めた現金や預貯金は、誰が稼いだお金であるか、誰の名義の預貯金であるかにかかかわらず、原則として夫婦の共有財産になります。
へそくりは、現金または預貯金という形で残されている可能性がありますので、財産分与をする際には、しっかりと調べることが重要です。 -
(2)不動産
婚姻中に購入した戸建て住宅、マンションなどの不動産は、不動産が誰の名義であるかにかかわらず、原則として夫婦の共有財産になります。
ただし、不動産の評価額については、住宅ローンを加味して判断する点に注意が必要です。住宅ローンの残高が不動産の価値を上回っている(オーバーローン)の場合には、不動産の価値はないとして、財産分与の対象外になります。 -
(3)保険
生命保険や学資保険のうち、解約返戻金が発生するものについては、財産分与の対象になります。
婚姻期間中に加入した保険については、当然に共有財産に該当します。また、婚姻前に加入した保険であっても、婚姻期間中の共有財産から掛け金が支払われていた場合には、保険の加入期間のうち婚姻前の部分を除いたものが財産分与の対象になります。
学資保険については、子どものために掛けているという認識の方が多いですが、保険料の原資が夫婦の共有財産から支払われている場合には、学資保険も夫婦の共有財産になります。 -
(4)退職金
退職金も財産分与の対象となりますが、結婚前から働いている場合には、退職金の中には特有財産部分も含まれています。そのため、財産分与においては、退職金から特有財産部分を除かなければなりません。
また、退職金がまだ支払われていない場合には、以下のような事情を踏まえて、退職金の支払いが確実といえるかどうかで財産分与の対象になるかが変わってきます。- 退職金に関する規定の有無
- 会社の規模や財政状況
- 定年退職までの期間
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(5)住宅ローンや教育ローンなどの負債
財産分与というとプラスの財産をイメージする方も多いですが、住宅ローンや教育ローンなどのマイナスの財産についても財産分与の対象となることがあります。
このようなマイナスの財産が婚姻生活を送るうえで必要な債務だった場合には、共有財産に該当しますので、マイナスの財産も含めて財産分与の対象財産を評価する必要があります。
他方、以下のような債務については、夫婦の婚姻生活とは無関係に負ったものといえますので、財産分与の対象には含まれません。- 独身時代の借金
- 婚姻生活中の借金であっても、ギャンブルや浪費など個人的に負った借金
- 事業のために負った借金
3、財産分与の進め方と相手にへそくりがある場合の注意点
以下では、財産分与の進め方と相手にへそくりがある場合の注意点を説明します。
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(1)財産分与の進め方
財産分与は、以下のような流れで進めていきます。
① 財産分与の対象となるものを確認する
まずは財産分与の対象となる財産をリストアップしていきます。自分名義の財産であれば、リストアップも容易ですが、相手名義の財産となるとすべての財産を把握しているわけではありませんので、相手の協力がなければリストアップができません。
お互いにすべての財産を開示し合って、財産分与の対象財産を確認していきましょう。
② 不動産、車などの価値を算定する
現金や預貯金であれば、残高=評価額になりますので、財産の評価は容易です。
しかし、不動産や車などの財産は、きちんと査定しなければ適正な評価額の把握は困難です。特に不動産については、固定資産税評価額、不動産会社の査定額、路線価、相続税評価額、不動産鑑定士による鑑定額などさまざまな評価方法がありますので、適切な方法を選択することが重要になります。
③ 夫婦で話し合い、分け方を合意する
財産分与の対象財産・評価額が明らかになったら、夫婦の話し合いで、どのように財産を分けるかを決めていきます。財産分与の割合は、夫婦の合意があればどのような割合でも定めることができますが、原則として2分の1の割合で財産分与することが多いです。配偶者が専業主婦であっても基本的にはこの割合は変わりません。
夫婦の話し合いで財産分与の合意にいった場合には、離婚協議書などの書面を作成し、合意内容を残しておくようにしましょう。
④ 話し合いがまとまらない場合は離婚調停・財産分与請求調停
財産分与の話し合いがまとまらないときは、離婚前であれば離婚調停の申立て、離婚後であれば財産分与請求調停の申立てを行います。
どちらも基本的には話し合いの手続きになりますので、お互いの合意が得られなければ調停不成立となります。離婚調停が不成立になったときは、離婚訴訟の提起が必要になりますが、財産分与請求調停が不成立になったときは、自動的に審判に移行しますので、特別な手続きは不要です。 -
(2)相手にへそくりがある場合の注意点
相手にへそくりがある場合には、以下の点に注意が必要です。
① へそくりがあることを証明しなければならない
相手がへそくりを隠している疑いがあるというだけでは、へそくりを財産分与の対象に含めることはできません。へそくりを財産分与の対象に含めるためには、財産分与を請求する側でそれを証明していかなければなりません。相手が自分に内緒にしているへそくりを見つけるのは難しいかもしれませんが、以下のような隠し場所を探してみるとよいでしょう。- 現金で隠しているなら自宅の中の相手の私的なスペース
- 預金で隠しているなら相手の預貯金通帳や銀行からの郵便物
- 電子マネーで隠しているなら電子マネーアプリの残高
② 財産分与後のへそくりが見つかったときの対処法
財産分与の際には、相手のへそくりを発見することができず財産分与を終えてしまうというケースもあるでしょう。このような場合には、財産分与後であってもへそくりを対象として再度財産分与を請求することができます。
ただし、財産分与には、離婚から2年という時効がありますので、これを過ぎてしまうとへそくりの財産分与を行うことができません。このような場合には、不法行為に基づく損害賠償請求として財産分与相当額の支払いを求めていくことも可能です。
4、離婚時の財産分与について弁護士に相談するメリット
離婚時の財産分与については、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)へそくりを含め財産を適正に評価できる
適正な財産分与を実現するためには、財産分与の対象となる財産を適正に評価することが重要になります。
現金や預貯金であれば財産評価は簡単ですが、車や不動産が含まれている場合にはどのような評価方法を採用するかによって、金額が大きく変わってきます。また、退職金や保険のように特有財産部分が含まれているような場合には、それを除外して計算しなければ、不当に高額な財産を分けるリスクが生じてしまいます。
このように財産評価にあたっては、さまざまな点を考慮しなければなりませんので、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。財産分与の対象財産を適正に評価するためにも、まずは弁護士のご相談ください。 -
(2)財産分与の割合や基準時などを正しく判断できる
財産分与の割合は、基本的には2分の1になりますが、どちらか一方が財産形成に大きく貢献したような場合には、異なる割合での財産分与も可能です。
また、財産分与は、どの時点の財産が対象になるのか、どの時点で財産を評価するのかという基準時が問題になることがあります。基準時の選択を誤ると、本来もらえるはずの財産がもらえないなどのリスクが生じますので、適切な対応が求められます。
弁護士に相談をすれば、個別具体的な事案に応じた財産分与の割合や基準時をアドバイスしてもらえますので、適正な財産分与を実現できる可能性が高くなります。 -
(3)弁護士会照会によって隠し財産を明らかにできる可能性がある
へそくりなどの隠し財産があったとしても個人の調査では限界がありますので、相手のすべての財産を明らかにすることはできません。
しかし、弁護士であれば弁護士会照会という特別な調査方法を利用することができますので、相手が隠している財産も明らかにできる可能性があります。また、弁護士会照会で明らかにならない財産でも裁判所の調査嘱託を利用することで明らかにできる可能性もあります。
相手がすべての財産を開示していない疑いがあるというときは、財産調査のために弁護士に依頼することをおすすめします。
5、まとめ
婚姻期間が長い夫婦だと、へそくりだけでも相当な金額になることもあります。へそくりが共有財産に該当するのであれば財産分与の対象になりますので、しっかりと請求していくことが重要です。
ただし、へそくりの性質によっては、特有財産に該当するものもありますので、自身で判断できないときは弁護士に相談するようにしましょう。
財産分与でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 成田オフィスまでお気軽にご相談ください。
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