整理解雇の4要件と実施の流れは? 注意点やリストラとの違いも解説
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経営不振を理由に「整理解雇」を行う際には、4要件を満たさなければなりません。
成田市を管轄する千葉労働局による定例記者発表によると、令和5年度に千葉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争相談は8242件で、そのうち解雇に関するものは884件でした。
整理解雇の4要件を満たさずに整理解雇すると、労働者に解雇の無効を主張されて不利な立場に置かれてしまうおそれがあります。
本コラムでは、整理解雇の4要件や、整理解雇を行う際に尽くすべき手順などを、ベリーベスト法律事務所 成田オフィスの弁護士が解説します。
1、整理解雇とは? リストラとは違う?
「整理解雇」とは、経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。
整理解雇よりも広い意味の言葉として「リストラ」があります。リストラとは本来、「企業の再構築(Restructuring)」を意味する言葉で、企業組織や事業の再構築を指します。しかし今日の日本では、主に従業員を退職させて人件費を削減することを意味するケースがほとんどでしょう。
整理解雇はリストラの一種ですが、それ以外にも退職勧奨を経た合意退職や、希望退職などもリストラに含められることがあります。
整理解雇の有効性は、4要件を総合的に考慮して判断されます。詳しくは次章「2、整理解雇を行う際に満たすべき4要件」をご確認ください。
また、以下の期間においては、整理解雇を含むいかなる解雇も行うことができません(労働基準法第19条第1項)。
- 労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間、およびその後30日間
- 産前産後休業の期間、およびその後30日間
なお解雇の種類には、整理解雇のほかにも「懲戒解雇」と「普通解雇」があります。
懲戒解雇は企業秩序違反を理由とする解雇、普通解雇は契約法上の解約として位置づけられます。
2、整理解雇を行う際に満たすべき4要件
整理解雇の有効性を判断する際には、判例法理により確立された次の4要件が総合的に考慮されます。各要件をどの程度満たしているかによって整理解雇の有効性が変わるため、あらかじめ慎重に確認しましょう。
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(1)人員削減の必要性
整理解雇は、経営不振を改善するために人員を削減する目的で行われるものです。
しかし、コストカットをしたいという会社の意向があっても、整理解雇される従業員は大きな不利益を被ります。そのため、人員削減の必要性が認められる場合に整理解雇が可能とされています。
倒産の危機に瀕しているようなケースのほか、債務超過や赤字累積など高度の経営上の困難が生じているケースでも、人員削減の必要性が認められる場合があります。
これに対して、整理解雇の前後において大幅な賃上げや大量の新規採用、増配などを行った場合は、人員削減の必要性と矛盾する行動のため、人員削減の必要性が否定される場合があります。 -
(2)解雇回避努力義務の履行
整理解雇を行う前に、使用者側において解雇を避けるための努力を尽くさなければなりません。
具体的には、以下のような対応をあらかじめ行ったにもかかわらず、なお整理解雇がやむを得ないと言える状況であることが求められます。- 労働時間の短縮、残業の削減
- 昇給停止
- 賞与減額、停止
- 余剰人員の配転、出向
- 新規採用の停止
- 希望退職者の募集
- 役員報酬の削減
- 会社資産の売却
- 助成金の申請
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(3)被解雇者選定の合理性
整理解雇する従業員を選定する際には、客観的合理的かつ公平な基準を定めたうえで、その基準を適切に運用しなければなりません。
選定基準の項目としては、以下の例が挙げられます。- 年齢
- 勤続年数
- 勤怠(欠勤、遅刻、早退など)
- 能力や勤務成績
- 配置転換の難しさ
- 家族構成や生活状況(解雇による生活への影響)
ただし、機械的に選定することは適切ではないため、複数の要素を総合的に考慮する必要があるでしょう。また、選定基準が公平かつ合理的でも、その運用が不適切である場合は、選定の合理性が否定される場合もありますので、選定基準に従って、適切に対象者を選定しましょう。
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(4)解雇手続きの妥当性
整理解雇を実施する前に、従業員や労働組合に対して整理解雇がやむを得ない事情を十分に説明し、納得してもらえるように努める必要があります。
複数回にわたって説明会を開催する、不服がある従業員と対話をするなど、できる限りの説明を尽くしましょう。
お問い合わせください。
3、整理解雇を行う際の手順
整理解雇を行う際に、企業がとるべき手順は以下のとおりです。
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(1)解雇を回避するための代替策を実施する
いきなり整理解雇を行うと、解雇を回避する努力を尽くしていないとして、整理解雇が無効と判断されるリスクが高いです。まずは、コストカットのためにできる限りの方法を尽くしましょう。
上述のように、役員報酬が高すぎる場合は削減する、新規採用の抑制や希望退職者の募集をする等、会社の状況に応じて、適切な方法によってコストを削減し、経営改善を図りましょう。なお、これらの措置を講じてもなお人員削減の必要性がある場合、その必要性を裏付ける資料を揃えておくべきです。 -
(2)人選の基準を決め、整理解雇する従業員を選定する
整理解雇がやむを得ない状況になった場合は、対象者の選定を行うことになります。
前述のとおり、整理解雇する従業員を選ぶ際には、客観的合理的かつ公平な基準を定めたうえで、その基準を適切に運用する必要があります。幹部の好みなど、恣意的な基準で整理解雇の対象者を選んではいけません。
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(3)労働者側に対して十分に説明をする
整理解雇の見通しが立った段階で、従業員向けの説明会を開催しましょう。整理解雇の必要性を客観的な根拠資料に基づいて丁寧に説明しつつ、従業員からの質問や批判などには真摯に向き合うなど、誠実な対応が求められます。
また、事業場に労働組合がある場合は、労働組合に対する説明も必要です。団体交渉を求められたら、拒否せず誠実に対応しましょう。 -
(4)解雇予告または解雇予告手当の支払いを行う
整理解雇する従業員に対しては、原則として30日以上前に解雇予告をする必要があります。
解雇予告をしない場合、または予告期間が30日未満である場合は、以下の金額の解雇予告手当を支払わなければなりません(労働基準法第20条)。- 解雇予告をしない場合:30日分以上の平均賃金相当額
- 解雇の予告期間が30日未満である場合:30日から予告期間分を短縮した日数分以上の平均賃金相当額
解雇予告または解雇予告手当の支払いを適切に行わないと、労働基準監督署による是正勧告の対象になります。また、悪質な場合には刑事罰を受けるおそれもあるので、十分ご注意ください(労働基準法119条1号)。
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(5)解雇する
解雇予告において明示した解雇日が到来すると、整理解雇の効力が生じます。
なお、整理解雇をした従業員については、以下の手続きなどが必要になります。弁護士や社会保険労務士のアドバイスを受けながら対応しましょう。- 社会保険や雇用保険の資格喪失手続き
- 離職票の交付
- 源泉徴収票の交付
4、整理解雇について弁護士に相談するメリット
従業員を整理解雇したい企業は、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。整理解雇について弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。
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(1)4要件を満たしているかどうか確認してもらえる
整理解雇を行う際には、本記事で紹介した4要件を満たしているかどうか慎重に確認することが大切です。
弁護士に相談すれば、実際の企業の状況や取り組みなどに照らして、4要件を満たしているかどうかを法的な観点から確認してもらえます。 -
(2)解雇に向けて必要な手続きをサポートしてもらえる
従業員を整理解雇するに当たっては、代替案の実施、人選基準の策定および人選、解雇予告など、さまざまな手続きを経る必要があります。
弁護士に相談すれば、解雇に向けた必要な手続きをリストアップしたうえで、漏れなく適切に対応できるようにサポートを受けられます。 -
(3)従業員との間でトラブルが生じたときは、対応を依頼できる
整理解雇に関して、万が一従業員との間でトラブルが発生しても、あらかじめ弁護士に相談していれば安心です。従業員との交渉、労働審判、訴訟などにつき、代理人として一貫したサポートをしてもらえます。
弁護士が法律のルールや裁判例を踏まえて対応することにより、労使トラブルのスムーズかつ合理的な解決が期待できます。
5、まとめ
整理解雇を行う際には、「人員削減の必要性」「解雇回避努力義務の履行」「被解雇者選定の合理性」「解雇手続きの妥当性」の4要件を満たさなければなりません。
4要件を満たしていないのに整理解雇をすると、労働契約法第16条(解雇権濫用の法理)に基づき解雇無効と判断される可能性があります。もし、従業員に解雇無効を主張されてしまえば、企業が不利な立場に追い込まれてしまうので十分ご注意ください。
整理解雇について不安な点があれば、弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所は、解雇に関する企業のご相談を随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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