給料未払いのまま社長が逃亡した場合、従業員はどうすべき?

2025年11月26日
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給料未払いのまま社長が逃亡した場合、従業員はどうすべき?

令和6年10月、東京都と千葉県の老人ホームで職員が一斉に退職し、経営者が逃亡状態という事案が報道されました。どちらの施設も給与未払いとなるほどの経営難が原因とされています。

給料が支払われないまま社長が失踪し、どうすればいいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。給料未払いのまま社長と音信不通になってしまうと、給料の支払いを促すこともできません。

本コラムでは、給料未払いで社長が逃亡した場合にまずやるべきことや、利用できる制度などについて、ベリーベスト法律事務所 成田オフィスの弁護士が解説します。


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1、社長が逃亡したら、未払いの給料は泣き寝入りするしかない?

社長が逃亡した際、未払いの給料があった場合は法的にどう扱われるのか、また未払いの給料がある場合に従業員が持つ権利について紹介します。

  1. (1)会社には給料を全額支払う義務がある

    労働基準法第24条では、会社は給料を「通貨で、直接労働者に、全額」支払わなければならないと規定されています。また、同法第24条第2項により、給料は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。

    これは、企業の規模や経営状況にかかわらず、すべての雇用主に課せられているルールです。給料を支払わないことはもちろん、遅れて支払う、一部だけ支払うといった行為も、原則として認められません。

    たとえ社長が姿をくらませていたとしても、会社としての給料の支払い義務は残り続けます。労働者は、働いた分の報酬を法律に基づいて請求できるのです。

  2. (2)会社の経営が悪化していても給料の未払いは違法となる

    経営が悪化している状況であったとしても、会社が従業員の給料を支払わないことは違法となります。

    「資金繰りが厳しい」「入金遅れがある」などの理由で給料未払いとなるケースもありますが、それらは賃金支払義務の免責事由とはなりません。経営責任は雇用者側にあり、従業員の生活を犠牲にすることはできません。

    給料の支払い義務違反が認められた場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第120条)。

  3. (3)従業員には遅延損害金の支払いを求める権利もある

    定められた日に給料が支払われていない場合、従業員には未払い金だけでなく、遅延損害金を請求することもできます。遅延損害金とは、支払期日から実際に支払われるまでの間に発生する利息のようなものです。

    在職中の未払いの給料に対する遅延損害金の利率は、現行民法上、年3%(※将来的に変動する可能性があります)です。なお、会社を退職した後に請求する場合、その未払い賃金については、退職日の翌日から年14.6%の利率(賃金の支払の確保等に関する法律第6条)で請求できるのが原則です。未払いとなっている期間が長いほど、請求できる遅延損害金も高くなります。

2、給料未払いのまま社長が逃亡した場合、まずやるべきこと

給料未払いのまま社長が逃亡したからといって、何もできなくなるわけではありません。証拠を集めてしかるべき機関に相談することで、給料の回収につなげられる可能性があります。
従業員がまずやるべきことについて、以下で具体的に確認していきましょう。

  1. (1)従業員として働いたことや給料未払いの証拠の確保

    まずは、自分がその会社で働いていたことと、給料が未払いであることを証明する資料を確保しましょう。具体的には、以下のような書類・データが証拠として有効です。

    • 雇用契約書または労働条件通知書
    • 給与明細
    • タイムカード、勤怠管理データ、シフト表
    • 業務報告書、チャット履歴
    • 通帳の入出金履歴(給与振り込みの有無がわかるもの)

    これらの証拠は、労働基準監督署や弁護士に相談する際の基本資料になります。
    紙の書類だけではなく、メール・LINE・業務連絡アプリでの上司や同僚とのやりとりなども証拠になります。今後の調査や請求に備えて、できる限り保存やコピーをしておきましょう。

  2. (2)未払い給与額の計算

    次に、証拠の確保と並行して、未払いとなっている給料の金額をできるだけ正確に計算します。
    以下の賃金が支払われていない場合には、未払い給料として計算に含められます。

    • 基本給
    • 通勤手当など各種手当
    • 残業代

    上記の内容を踏まえて、給与明細や雇用契約書、就業規則などの資料を参考に、未払いの給与を計算しましょう。

    なお、退職日が月の途中になったケースでは、出勤日数に応じて日割り計算が必要になる可能性があります。このような場合には計算が複雑になるため、必要な資料をできる限り集めたうえで、専門家である弁護士への相談を検討してみてください。

  3. (3)労働基準監督署に相談する

    証拠と未払い金額がある程度整理できたら、最寄りの労働基準監督署に相談します。労働基準監督署は、労働関連法に基づき、企業に対して是正指導を行う行政機関です。

    未払い賃金があることに加えて、社長が逃亡していることも伝えれば、労働基準監督署で会社の実態把握や調査を進めてくれる可能性があります。会社が形だけでも存続していれば、労働基準監督署による是正指導が有効になるケースもあるでしょう。

    ただし、未払い給料の代理請求や訴訟などには対応していないため、未払いの給料の請求をするなら、弁護士への相談をおすすめします。

  4. (4)弁護士に相談する

    会社に一定の資産や売掛金が残っているとわかっている状況では、弁護士への相談が有効です。弁護士であれば、以下のような法的手段を検討できます。

    • 内容証明郵便での請求
    • 民事訴訟の提起
    • 仮差し押さえなどの保全処分

    特に、会社がまだ法人として存在しており、資産がある可能性が高い場合には、早期の対応が重要となります。時間がたつほど資産がなくなるリスクが高まり、回収が困難になるためです。

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3、会社が倒産した場合は、未払賃金立替払制度を利用できる

給料を払ってもらっていないにもかかわらず会社が倒産してしまった際は、未払賃金立替払制度を利用できます。未払賃金立替払制度の内容について確認していきましょう。

  1. (1)未払賃金立替払制度の条件

    未払賃金立替払制度を利用するには、いくつかの条件を満たす必要があります。具体的な条件は以下のとおりです。

    • 勤務先の会社が「倒産状態」にあること
    • 労災保険の適用事業で、1年以上労働者を雇って事業活動を行っていた会社であること
    • 倒産日の6か月前の日から2年の間に退職している労働者であること

    この制度を利用するには、会社が倒産状態であることが条件となります。法的な倒産手続きをしているケースのほか、労働基準監督署長が「事実上の倒産」と認定した場合にも該当します。

    したがって、社長が逃亡しているだけで会社の事業が継続している場合には、すぐにこの制度を使うことはできません。

  2. (2)条件に当てはまれば未払い給料の8割が支払われる

    条件に当てはまっていれば、労働者健康安全機構から未払い賃金の8割が支払われます。
    ただし、支払額には年齢に応じた限度額が設けられており、全額が戻ってくるわけではありません。年齢別の具体的な限度額は、以下のように定められています。

    退職時の年齢 未払い賃金総額の限度額 立て替え払いの上限額
    45歳以上 370万円 296万円
    30歳以上45歳未満 220万円 176万円
    30歳未満 110万円 88万円

    また、立て替え払いの対象となるのは、「退職日の6か月前の日から、立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払い賃金」に限られるため、早めに制度の確認をしましょう

4、未払賃金立替払制度を利用する手続き

未払賃金立替払制度を利用する手続きは、会社が「法律上の倒産」か「事実上の倒産」のどちらに該当するかで異なります。
それぞれの手続きの流れについて、以下で確認していきましょう。

  1. (1)法律上の倒産の場合

    会社が破産・特別清算・民事再生・会社更生のいずれかの手続きを行っている場合、「法律上の倒産」として未払賃金立替払制度の手続きを進めます。申請の大まかな流れは、以下のとおりです。

    ① 倒産手続きの種類に応じて証明者に証明申請する
    ② 証明書の交付を受ける
    ③ 書類に必要事項を記入し、機構に送付・請求する
    ④ 機構が証明者に照会する
    ⑤ 立て替え払いの決定後、支払いを受ける

    証明者は、倒産手続きの種類によって異なり、破産管財人(通常、弁護士が選任されます)や再生手続申立者などとなります。証明者から必要事項の証明を得られなかった場合には、労働基準監督署に証明を得られなかった事項の確認申請が可能です。証明に関する疑問点があれば、最寄りの労働基準監督署に相談しましょう。

  2. (2)事実上の倒産状態にある場合

    社長が逃亡したケースでは、倒産手続きが行われていなくても事実上の倒産状態とみなされる可能性があります。このようなケースでは、以下の流れで手続きを進めましょう。

    ① 労働基準監督署長に「事実上の倒産」の認定申請を行う
    ② 認定通知書の交付を受ける
    ③ 労働基準監督署長に立て替え払い請求の必要事項について確認申請を行う
    ④ 確認通知書の交付を受ける
    ⑤ 書類に必要事項を記入し、機構に送付・請求する
    ⑥ 立て替え払いの決定後、支払いを受ける

    この手続きでは会社側の協力が得られないため、労働者だけで手続きを進める必要があります。書類の不備や証拠不足があると、申請が受理されないケースもあるため注意が必要です。

    事実上の倒産のケースで書類の準備などに悩んだときは、弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。

5、まとめ

未払賃金立替払制度は、会社が「法律上」または「事実上」の倒産状態にある場合にのみ利用できる制度です。つまり、会社が営業を続けている場合は、この制度を通じて未払い給料を立て替えてもらうことはできません。

社長が逃亡し、給料が未払いのまま倒産手続きもされず放置されているような状況であれば、まず弁護士に相談しましょう。弁護士に相談することで、個別の事情に応じた法的手段を検討できます。

ご自身の権利や生活を守るためにも、給料未払いで悩んだときはベリーベスト法律事務所 成田オフィスの弁護士にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています